徒然日記
日本はいつから「安い国」になったのか 【26年10月14日 『逢坂誠二の徒然日記』8685回】
1)日本はいつから「安い国」になったのか
先日、タクシーに乗った際、ドライバーさんとこんな雰囲気の会話になりました。
「外国人がいっぱい来て、助かっているよ。やっぱり日本はいい国だからね」
「日本の魅力に惹かれて来る方も多いと思います。でも、円安の影響も大きいですね。外国人にとって、日本は物価の安い国になっているんです」
「そうか、日本は物価が安いんだ」
「この30年、アジアを含め海外の多くの国々では、経済が成長し、賃金も物価も上がりました。一方、日本は賃金も物価も長い間あまり上がらなかった。そこに円安が重なって、外国から見ると日本は随分物価の安い国になったんです」
「でも、日本の経済力はまだ世界のトップクラスだべ」
「確かに日本は今も経済大国です。でも、世界の中での日本の位置は大きく変わりました。昔のように、日本だけが豊かで、他のアジアの国々は貧しいという時代ではなくなっています」
「そうかな。酪農家の兄はフィリピン人を雇っているけど、自分の国では給料が5万円、日本では20万円だから、喜んでいるよ」
「そういう方も、もちろんいます。今でも日本の方が賃金の高い国はあります。ただ、アジアの国々でも賃金は上がっていますし、日本との差は以前より縮まっています。日本より高い賃金を得られる国もあるんです」
「でもアジアの人は、日本で働けば嬉しいべ」
こんな雰囲気の会話をしたのですが、ドライバーさんには、この30年間で世界経済の中における日本の立ち位置が大きく変わったという実感は、あまりないようでした。
私も、それ以上の説明はしませんでした。
しかし、タクシーを降りてからも、この会話が頭に残りました。
私たち日本人の多くは、今も「豊かな日本、賃金の安いアジア」という、かつてのイメージで世界を見ているのではないでしょうか。
この変化を考えるうえで、ぜひ知っておきたい経済指標があります。
「実質実効為替レート」です。
少し難しい言葉ですが、簡単に言えば、円の価値を、複数の国の通貨との関係や、それぞれの国の物価の違いを考慮して測る指標です。
ドルに対して円が高いか安いかだけではなく、世界の中で円の実質的な価値がどう変わったかを示しています。
この実質実効為替レートは、1995年頃と比べて大幅に低下しています。国際決済銀行の統計では、2026年には1995年のピーク時のおよそ3分の1の水準にまで落ち込んでいます。
これは、日本の経済力そのものが3分の1になったという意味ではありません。
しかし、海外の物価との関係で見た円の価値、つまり円の国際的な購買力が、大幅に低下していることを示しています。
かつて日本人は、海外に出かけると、比較的安い費用で買い物や食事を楽しめる国が数多くありました。
ところが今は、海外旅行に出かけると、ホテルも食事も交通費も、随分高く感じることがあります。
反対に、外国人にとっては、日本のホテルや食事、買い物が割安に感じられるようになっています。
もちろん、日本には、文化、自然、食、治安など、世界に誇れる魅力が数多くあります。
しかし、外国人観光客が増えている背景には、こうした魅力だけではなく、日本が国際的に見て割安な国になったという現実もあるのです。
円安によって外国人観光客が増え、輸出企業の収益が増えることもあります。それは日本経済にとってプラスの面です。
しかし、その一方で、円の国際的な購買力が大幅に低下しているという現実も見逃せません。
円安は、食料やエネルギー、原材料など、海外から輸入するものの価格を押し上げ、私たちの暮らしや企業活動を圧迫します。
海外旅行や留学の費用も高くなり、日本人が海外で学び、経験を積む機会が狭まるおそれがあります。
さらに、日本で働いて得られる賃金の国際的な価値が低下すれば、外国人にとって日本で働く魅力も薄れ、人手不足が一層深刻になる可能性があります。
では、私たちはどうすべきなのでしょうか。
まず必要なのは、世界の中で日本の経済的な立ち位置が大きく変わったという現実を、正面から受け止めることです。
そして、日本で働く人々の賃金を持続的に引き上げ、暮らしを豊かにする経済をつくらなければなりません。
そのためには、目先の景気対策だけでは不十分です。
教育や研究開発、人材育成に力を注ぎ、新しい技術や産業を育てる。中小企業や地域経済を元気にし、そこで生み出された利益が、働く人々の賃金にきちんと反映されるようにする。
さらに、食料やエネルギーの国内生産を強化し、海外の価格変動や為替相場に左右されにくい経済をつくることも大切です。
経済の豊かさは、国全体のGDPの大きさだけで決まるものではありません。
一人ひとりが安心して暮らし、働き、その努力が報われること。そして、将来に希望を持てること。それこそが、経済政策の目指すべき姿だと思います。
世界は大きく変わりました。日本も変わりました。
しかし、私たちの世界を見る物差しは、その変化についていけているのでしょうか。
かつての豊かな日本というイメージにとらわれることなく、今の日本の姿を正確に見つめる。そこから、日本の経済と国民の暮らしを立て直す議論を始めなければなりません。
さあ今日も、ブレずに曲げずに、確実に前進します。
【26年10月14日 その6988『逢坂誠二の徒然日記』8685回】
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