徒然日記

なぜ宇宙には物質が存在するのか 【26年10月13日 『逢坂誠二の徒然日記』8684回】

今日は新月から2日目です。夕方、西の空に細い月を見ることができるでしょうか?

1)なぜ宇宙には物質が存在するのか
先日、ノーベル化学賞の受賞が決まった硤合憲三さんの研究について勉強しているうちに、宇宙の始まりについて、ある疑問が浮かんできました。

なぜ、この宇宙には物質が存在するのでしょうか。
私たちの体も、地球も、太陽も、すべて物質でできています。
当たり前のように思えますが、宇宙の始まりを考えると、不思議な問題に突き当たります。
約138億年前、宇宙は極めて高温で密度の高い状態にありました。
その初期の宇宙では、「物質」と、それに対応する「反物質」が、ほぼ同じ量だけ存在していたと考えられています。
反物質とは、普通の物質と質量は同じですが、電気的な性質などが反対になっているものです。

例えば、電子には陽電子、陽子には反陽子という反粒子があります。
そして、物質と反物質が出会うと、互いに消滅し、光などのエネルギーに変わります。これを「対消滅(たいしょうめつ)」と呼びます。
もし物質と反物質が完全に同じ量で、すべてが対消滅していたら、現在のような物質に満ちた宇宙は生まれなかったはずです。
しかし、実際には物質が残りました。
なぜでしょうか。

現在の科学では、宇宙の初期に、物質が反物質よりもごくわずかに多くなったと考えられています。
例えば、物質が10億1個、反物質が10億個あったとします。
この場合、10億組の物質と反物質が対消滅しても、物質が1個だけ残ります。
宇宙では、これと似たことが起きたと考えられています。
最初はほぼ同じ量だった物質と反物質。しかし、何らかの理由で物質がわずかに多くなり、その後、大部分が対消滅した結果、余分にあった物質が生き残ったのです。
その残った物質が集まり、長い時間をかけて銀河や星、地球、そして私たちの生命が誕生しました。

この流れを整理すると、次のようになります。
宇宙の始まり:極めて高温で密度の高い状態から宇宙が膨張する。
ほぼ対称的な状態:物質と反物質がほぼ同じ量だけ存在する。
わずかな非対称性の発生:何らかの理由で物質が少しだけ多くなる。
対消滅:物質と反物質の大部分が互いに消滅する。
物質が優勢な宇宙:わずかに残った物質から、星や惑星、生命が生まれる。
ただし、ここには、まだ解明されていない大きな謎があります。
なぜ、物質が反物質よりも少しだけ多くなったのでしょうか。
その原因は、現在の科学でも十分には分かっていません。
日本でも、ニュートリノという非常に小さな粒子を研究することによって、この謎を解こうとしています。

さて、ここで冒頭の硤合さんの研究に戻ります。
硤合さんは、分子には右手と左手のように鏡に映した関係にある二つの型が存在し、そのごくわずかな偏りが、化学反応によって大きく増幅されることを実験で示しました。
これは「不斉(ふせい)自己触媒反応」と呼ばれるものです。
反応によって生まれた分子自身が、同じ型の分子をつくる反応を促進することで、最初の小さな差が大きな差へと広がっていきます。
もちろん、硤合さんの研究と、宇宙の物質・反物質の問題は、原理が異なります。
硤合さんの研究では、化学反応によって一方の分子型が増えていきます。一方、宇宙では、物質と反物質の大部分が対消滅することによって、わずかに多かった物質が残ります。
しかし、私には、この二つに共通する大きな流れがあるように思えます。
最初はほぼ対称的だったものに、ごくわずかな差が生まれる。そして、その小さな差が、最終的には大きな偏りとなって現れる。
生命を構成する分子の世界と、宇宙全体の物質の世界。
扱う対象も仕組みも異なりますが、どちらも「なぜ自然界には非対称性が存在するのか」という根本的な問いにつながっています。
私たちが今ここに存在しているのは、宇宙の始まりに生まれた、ほんのわずかな物質と反物質の差があったからだと考えられています。
ほんの小さな違いが、やがて大きな違いにつながる。
硤合さんのノーベル化学賞をきっかけに、分子の世界から宇宙の始まりへと、思いが広がっています。
まだまだ分からないことばかりですが、科学の世界は実に奥深いものです。

さあ今日も、ブレずに曲げずに、確実に前進します。
【26年10月13日 その6987『逢坂誠二の徒然日記』8684回】

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