徒然日記

グラッドニー牧場訪問 【26年10月30日 『逢坂誠二の徒然日記』8701回】

全国的に気温の低い状態になっています。私も今シーズン初めてフリースをきました。皆さんも健康管理に十分お気をつけください。

1)グラッドニー牧場訪問
「牛を育て、土を育て、地域を育てる」

先日、黒松内町にある「グラッドニー牧場」を訪問しました。
牧場を営むティム・ジョーンズさん、森塚千絵さんご夫妻に、4時間近くにわたってお話を伺い、広い牧場内を案内していただきました。

グラッドニー牧場は、2020年に黒松内町で始まった牧場です。約81ヘクタールの土地で、主にアンガス牛を飼育しています。

この牧場の大きな特徴は、「環境再生型農業(リジェネラティブ農業)」に取り組んでいることです。
一般的に農業は、食料を生産する一方で、土壌や自然環境に負荷を与える側面もあります。しかし、ここでは牛を育てることを通じて、土壌を豊かにし、生物多様性を守り、自然環境を再生させようとしています。

牧場では、農薬や化学肥料に頼らず、牛を放牧しています。
牛たちは牧草だけでなく、ギシギシやイタドリ、オオハンゴンソウなど、一般には雑草と呼ばれる植物も食べます。穀物飼料を与えず、草を主体に育てる「グラスフェッド・グラスフィニッシュド」という飼育方法です。

牧場を歩いていると、黒いアンガス牛に交じって、褐色の牛も見られました。
秋も深まり、草の少なくなった放牧地では、牛たちが鼻で土を掘るようにして食べ物を探す姿もありました。冬に向かう北海道で、牛を屋外で育てることの厳しさも感じました。

印象的だったのは、土壌についての説明です。
ご夫妻が手に取って見せてくださった分解途中の有機物には、白い菌糸のようなものが広がっていました。
土の中には、目に見えない多くの微生物が暮らしています。植物が育ち、それを牛が食べ、牛の排せつ物などが土に戻り、微生物によって分解され、再び植物の成長につながる。
こうした自然の循環を大切にしているのです。

実は、ティムさんは2024年に奈良で開催された「ESD(持続可能な開発のための教育)国際シンポジウム」で、この取り組みについて発表されています。
発表の題名は「老カウボーイの反芻――ESD、より良い方法でより良い日々を求める生涯にわたる探求」です。

ティムさんは、アメリカのテキサス州で26年間教員を務め、長年にわたって農業や牧畜にも携わってきました。
発表では、子どもの頃の父親との思い出が紹介されています。
家族でキャンプに出かけると、父親は自分たちが出したごみだけでなく、他人が残したごみも拾わせたそうです。
訪れた場所を、来たときよりも良い状態にして帰る。
この父親の教えが、現在の牧場経営の原点になっているといいます。

ティムさんは、農業を単に食料を生産する営みとしてではなく、自然環境をより良い状態にして次の世代に引き継ぐ営みとして捉えています。
奈良での発表では、土壌の健康が、食料の質、人間の健康、地域社会の持続可能性につながることを強調しています。

また、牛はメタンを排出する一方、適切な放牧管理によって草地や土壌の再生に貢献できる可能性があると説明しています。
植物が光合成によって大気中の二酸化炭素を取り込み、その一部が根や土壌の有機物として蓄えられる。牛の放牧を適切に管理することで、こうした自然の働きを生かそうという考えです。

牧場が掲げている理念は、「ネイチャーポジティブ」と「カーボンネガティブ」。
生物多様性の損失を止め、自然を回復させること。そして、二酸化炭素の排出量よりも吸収量が多い状態を目指すことです。

奈良での発表では、土壌による炭素吸収に関する海外の研究も紹介されていました。
もちろん、実際にどの程度の炭素が吸収され、温室効果ガスの排出を相殺できるのかについては、科学的な測定と検証が必要です。
それでも、農業を環境への負荷としてだけでなく、環境を再生する力として捉える発想には、大いに学ぶものがあります。

もう一つ印象に残ったのは、地域とのつながりです。
牧場では、生産した牛肉を地域で直接販売することを大切にしています。単に牛肉を生産して売るだけでなく、地域の人々と支え合いながら、持続可能な暮らしをつくろうとしているのです。

さらに、ティムさんは、こうした取り組みを次の世代に伝える教育の重要性を強調しています。
奈良での発表でも、自分の生きている間に地球環境の再生を成し遂げることはできないかもしれないが、教育を通じて次の世代に引き継ぐことができる、と語っています。

牧場にも国内外から多くの人々を受け入れ、実際の土壌や植物、牛の姿を通じて、自然の循環について学ぶ機会を提供しています。
土を育てることと、人を育てること。その両方を大切にしているのです。

北海道では、人口減少や農業の担い手不足が進み、耕作放棄地も増えています。
こうした土地を生かし、自然環境を再生しながら、農業経営を成り立たせることができれば、地域の未来に新たな可能性が生まれます。

もちろん、どの地域でも同じ方法が通用するわけではありません。土地の条件や気候、経営の採算性など、考えなければならない課題もあります。
それでも、農業を食料生産だけでなく、土壌や自然環境、地域社会を豊かにする営みとして捉えることは、これからの北海道にとって重要な視点だと思います。

ところで、牧場内の移動にはバギーに乗せていただきました。
これがなかなかスリリングでした。
子どもの頃、トラックの荷台に乗って農地を走り回ったことを思い出し、何とも懐かしい気持ちになりました。

広い牧場を案内していただきながら、ご夫妻の農業に対する強い信念と、日々の地道な努力を感じました。

牧場の資料には、こんな理念が記されています。
「健やかな土が健やかな食べ物を、健やかな食べ物が健やかな人を、健やかな人々が健やかな地域社会を、健やかな地域社会が健やかな惑星を育む」

この言葉には、ティムさんと千絵さんが目指している農業の姿が凝縮されているように思います。
牛を育て、土を育て、地域を育てる。そして、その取り組みを次の世代につないでいく。

グラッドニー牧場での4時間は、北海道の農業と地域の未来を考える、大変貴重な時間となりました。
ティムさん、千絵さん、本当にありがとうございました。

さあ今日も、ブレずに曲げずに、確実に前進します。
【26年10月30日 その7004『逢坂誠二の徒然日記』8701回】

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