徒然日記
成長と低金利への高市総理の賭け 【26年7月23日 『逢坂誠二の徒然日記』8602回】
1)成長と低金利への高市総理の賭け
一昨日、政府は「経済財政運営と改革の基本方針2026」、いわゆる骨太の方針と、「日本成長戦略」を閣議決定しました。
今回の方針には、これまでの財政運営の考え方を大きく転換する内容が盛り込まれています。正直に申し上げて、私は相当に危惧しています。
私が特に注目したのは、次の5点です。
第一は、成長のために積極的な投資を行うことです。
これまでのように、財政健全化を優先し、その範囲内で成長政策を行うのではなく、AI、半導体、量子、宇宙、GXなど、成長が期待される17分野に政府が積極的に投資する姿勢を明確にしました。
日本では、長年にわたる投資不足が経済の停滞を招いたとの指摘があります。将来に必要な分野へ投資すること自体は重要です。
しかし、政府が選んだ分野に予算を投入すれば、必ず成長につながるわけではありません。何に投資するのか。なぜその分野なのか。どのような成果を、いつまでに目指すのか。明確な基準が必要です。
第二は、新しい投資枠の予算要求に上限を設けないことです。
従来の予算編成では、各省庁の要求額に一定の上限を設け、歳出の膨張を抑えてきました。
今回は、成長戦略に関わる新たな投資枠について、要求上限を設けない方針が示されています。必要な投資を、従来の予算の枠に縛られずに行うという狙いでしょう。
しかし、要求に上限を設けないことが、際限のない歳出拡大につながるおそれもあります。
投資の必要性や効果、優先順位を誰が、どのような基準で判断するのか。財源をどう確保するのか。成果が上がらない事業を、どの段階で縮小、あるいは中止するのか。厳しい検証の仕組みが不可欠です。
第三は、基礎的財政収支の黒字化よりも、国債残高の対GDP比を重視することです。
これまで政府は、政策に必要な経費を新たな国債発行に頼らずに賄えているかを示す基礎的財政収支、いわゆるPBの黒字化を重要な目標としてきました。
今回の方針では、単年度のPB黒字化を機械的に追うのではなく、国債残高がGDPに対してどの程度なのかを重視する方向へ軸足を移しています。
経済が成長し、GDPが増えれば、国債残高が増えても、対GDP比は低下することがあります。
しかし、成長が想定どおりに実現しなければ、国債だけが積み上がります。また、物価上昇によって名目GDPだけが膨らみ、国民生活が苦しくなるようでは、本当の意味で経済や財政が改善したとは言えません。
第四は、補正予算よりも当初予算を重視することです。
近年、当初予算の成立後に大型の補正予算を編成することが常態化してきました。
本来、補正予算は、災害や急激な経済変動など、当初には予想できなかった事態に対応するためのものです。
ところが、毎年のように大型補正を組み、基金を積み上げるやり方では、予算の全体像が見えにくくなり、国会の監視も弱くなります。
必要な政策は、できる限り当初予算に計上し、正面から国会で議論する。この方向は、財政の透明性を高める意味で重要です。
第五は、単年度予算から、多年度を見通した予算へ移行することです。
AIや半導体、研究開発、インフラ整備などは、1年で成果が出るものではありません。
複数年度の計画を示すことで、企業や研究機関が将来を見通し、投資しやすくなる面があります。
一方、日本国憲法は、予算について国会の毎年度の議決を求めています。
多年度の計画を立てることと、毎年の国会審議を形骸化させないことを、どう両立させるのか。国会によるチェックのあり方も問われます。
補正予算から当初予算を重視することは、財政の透明性を高める可能性があります。しかし、その一方で、多年度の投資計画が事実上の既定路線となれば、毎年度の予算審議が形式的なものとなり、かえって財政の透明性や国会の統制が弱まるおそれもあります。
今回の骨太の方針は、財政健全化を優先するこれまでの考え方から、成長投資を優先する考え方へ、大きくかじを切ったものです。
必要な分野への投資は重要です。
しかし、「成長」という言葉さえ掲げれば、どのような支出も正当化されるわけではありません。
成長の成果が、一部の大企業や都市部だけにとどまらず、地方、中小企業、働く人の賃金、医療、介護、教育、そして暮らしの安心につながるのか。
成長が実現しなかった場合、その責任を誰が、どのように負うのか。
「責任ある積極財政」という以上、その責任の中身を国民に具体的に示さなければなりません。
今回の骨太の方針と成長戦略が成り立つためには、少なくとも二つの条件があります。
一つは、政府が想定する成長が実現すること。
もう一つは、金利の上昇が抑えられ、成長率が金利を上回る状態を維持することです。
このどちらか一方でも崩れれば、税収の伸びが期待を下回る一方、国債費は膨らみ、相当に厳しい現実を迎えることになります。
言い換えれば、今回の方針は、成長と低金利の両方が続くことへの大きな賭けです。
しかも、この大転換の中で、来年度予算の編成実務は相当に混乱することが予想されます。要求上限を設けない投資枠と、通常の予算をどのように仕分けるのか。各省庁の要求を誰が調整するのか。地方財政にどのような影響が及ぶのかも不透明です。
8月の概算要求を待つまでもありません。
高市政権の財政運営と成長戦略について、その実効性と危うさを、今から丁寧に検証していく必要があります。
さあ今日も、ブレずに曲げずに、確実に前進します。
【26年7月23日 その6905『逢坂誠二の徒然日記』8602回】
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