徒然日記
硤合憲三さんのノーベル化学賞 【26年10月9日 『逢坂誠二の徒然日記』8680回】
1)硤合憲三さんのノーベル化学賞
分子の小さな違いが大きな違いになる不思議。
硤合憲三(そあい・けんそう)さんのノーベル化学賞受賞を契機に、私もその業績を勉強してみました。
1.分子にも右手と左手がある
自分の右手と左手を見てください。
形はよく似ていますが、どのように向きを変えても完全に重ねることはできません。
実は、分子にも右手と左手のような関係にあるものがあります。これを「キラリティー」と呼びます。
私たちの体をつくるタンパク質のアミノ酸は、ほぼすべてL型(左型)です。
なぜ生命は一方の型を主に使うようになったのか。これは長年の謎です。
2.普通は右型と左型が半分ずつできる
右型と左型がある分子を、左右を区別する特別な条件なしで合成すると、一般に両方がほぼ半分ずつできます。
例えば100万個の分子をつくると、右型50万個、左型50万個です。
しかし、実際には偶然によって、
右型500,001個、左型499,999個
というような、ごくわずかな差が生じることもあります。
普通は、この小さな差が大きく広がるわけではありません
3.硤合さんは何を発見したのか
硤合さんが発見したのは、できあがった分子自身が、次に同じ分子をつくる反応を助ける仕組みです。
これを「自己触媒反応」といいます。
しかも、右型の分子は右型を、左型の分子は左型をつくる反応を促進します。
そして、最初にわずかに多かった型が、反応を進めるうちに圧倒的に多くなるのです。
例えば、
51%対49%
↓
70%対30%
↓
99%対1%
という具合です。
このように、左右の小さな偏りが大きくなることを「不斉増幅」と呼びます。
4.さらに驚くべき発見
硤合さんらは1995年、こうした反応を発見しました。
その後も研究を進め、2003年には、最初の左右の差が極めて小さくても、それを大きく増幅できることを示しました。
さらに、最初から右型か左型のどちらかを多くしておかなくても、反応が一方に大きく偏ることがあると分かりました。
例えば、反応の初期に偶然生じたほんのわずかな差が、反応を繰り返すうちに増幅されるのです。
つまり、意図的に右型か左型かを選ばなくても、化学反応そのものによって、一方の型が圧倒的に多くなる場合があるということです。
これが画期的な発見でした。
5.なぜ重要なのか
この研究は、生命の起源を考える重要な手掛かりになります。
私たちの体をつくるアミノ酸が、なぜほぼL型なのか。
硤合さんの研究は、生命が誕生する前でも、化学反応だけで分子の左右の偏りが大きくなる可能性を示しました。
ただし、実際に原始地球で硤合反応が起きたと証明されたわけではありません。
また、分子の右型と左型では、薬としての働きが異なる場合もあり、こうした研究は医薬品の開発にも関係しています。
6.基礎研究の大切さ
今回のノーベル化学賞は、硤合さんとフランスのアンリ・カガンさんの共同受賞です。
私が特に感銘を受けたのは、分子の右型と左型という、一見すると小さな違いを長年研究し続けたことです。
学生時代、私も分子の左右について学びましたが、正直、それほど大きな意味があるとは思っていませんでした。
しかし、その小さな違いの研究が、生命の起源という大きな謎に迫る成果につながったのです。
すぐに役立つかどうかだけでは、研究の価値は測れません。
研究者が自由な発想で、長い時間をかけて研究に取り組める環境を守ることが、いかに大切か。
今回の受賞は、そのことを改めて教えてくれます。
硤合憲三さんの長年の研究に、心から敬意を表します。
さあ今日も、ブレずに曲げずに、確実に前進します。
【26年10月9日 その6983『逢坂誠二の徒然日記』8680回】